「もとくらの袋とじ(現在「もとくらの深夜枠」)」で不定期連載としてはじまった「もしもしその後どうですか?」シリーズ。取材させていただいた方の、その後をうかがう企画です。今回は特別に、お昼に記事を更新する「灯台もと暮らし」に登場!

東京の蔵前でオーガニックのお茶を売るお店でありブランドを展開する「NAKAMURA TEA LIFE STORE」のデザイナー、西形圭吾(以下、西形)さんにおうかがいを立ててみました。

さまざまなメディアでお茶の歴史やティーカルチャーに焦点を当てた特集が組まれる昨今。実際、東京には若者が気軽においしいお茶をいただけるような店が増えつつあります。

NAKAMURA TEA LIFE STOREの立ち上げから2年目を迎えたいま、西形さんは何を考え、どんなことをしようとしているのでしょうか。

お客さんに長く寄り添えるお茶の店でありたい

タクロコマ 西形さん、こんにちは。前回取材をさせてもらったのが2015年10月です。僕はお客さんとしてちょこちょこと伺っていましたが、あれからもう1年とすこしが経ちました。

西形 圭吾 だいぶ前ですねー(笑)。

NAKAMURA TEA LIFE STORE_西形圭吾さんタクロコマ 取材当時と今をくらべて、町やお店で変わったところはありますか?

西形 蔵前は結構変わっていますよ。たとえばうちのお店の近くに「ダンデライオン・チョコレート ファクトリー&カフェ蔵前」ができました。そのおかげで大学生くらいの方とか、若いひとたちがたくさん蔵前に来てくれるようになりましたね。

タクロコマ 商品ラインナップを見ると、茶葉に関しては当時と変わらない印象を受けます。

西形 そうなんですよ。売り方も、お客さんに丁寧に想いを伝えるやり方を続けてきて、本当に恥ずかしいぐらい変わっていなくて。良く言えば初志貫徹です(笑)。

NAKAMURA TEA LIFE STORE_商品ラインナップ

タクロコマ お茶を好きになってくれるひとが徐々に増えているような感覚ってありますか?

西形 自分の感覚だと増えてきていますね。なかには1か月に何度も来てくれるひともいます。プレゼント用に買ってくださったり、逆にプレゼントでもらったひとが茶葉を使い切ったからまた来てくれたりするという感じで。

タクロコマ 何度も来てくれるお客さんが増えるのは嬉しいですね。

NAKAMURA TEA LIFE STORE
BOX FOR GIFT

東京においしいお茶が飲める店が増えて欲しい

タクロコマ チョコレート業界でいうBean to Bar(ビーントゥーバー)や、サードウェーブと呼ばれるコーヒームーブメントのように、お茶にもそういうスタイルが見直されている感じがしませんか? 例えば三軒茶屋に「green brewing」 というお店ができたりしています。追い風であり一過性のブームになる可能性もあると思うのですが、西形さんはどう考えているのでしょうか。

西形 もちろんお茶が注目を浴びることは嬉しいです。けど、とにかくお客さんに長く寄り添えるお店でありたいですね。毎日飲んでも飽きがこないし、身体に負担にならないオーガニックのお茶を扱っているので。

茶葉から淹れるお茶を今まで飲んでいなかった若いひとが、お茶を楽しむ機会が増えるのはすごくいいことだと思っていますよ。とにかく当時は茶葉の状態では売れなくて、それが中村家(*1)の悩みでもあったので。

(*1)中村家:静岡県藤枝市で約100年の歴史を誇る老舗のお茶屋問屋。当主の中村倫男さんは西形さんと幼馴染み。ふたりがタッグを組んで「NAKAMURA TEA LIFE STORE」を運営している。

タクロコマ たしかに僕自身、お茶はペットボトルで飲むのが当たり前でした。

西形 そうだと思います。だからこそ若いひとが行きたくなるようなお茶屋さんが東京に増えていくと、比較対象があることで、また中村くんがつくったお茶の良さを認識してもらえるんじゃないかなと。

NAKAMURA TEA LIFE STORE_西形さん

タクロコマ 東京でおいしいお茶を飲める店……と考えると、いっぱいあると思うんですが、僕は両手で数えられるくらいしか知らないです。

西形 若いひとが通えるお茶屋さんが増えてきて、それらと僕らのお茶を比較してもらった時に、自分のやり方がどうだったのか?というのを知りたい欲求もあってですね。若いひとにお茶を飲んでもらうためには、他のやり方もあると思いますから。

タクロコマ 身体にやさしい無農薬有機栽培のお茶をつくる。いつ、どこで、誰が、どうやってつくったのかわかるような、安心できる商品にする。代々続く一軒の農家のお茶を、畑ごとに区切って商品化する。生産者とデザイナーがタッグを組んで、地道に想いを伝える販売方法。こういったやり方に共感するひとはたくさんいらっしゃると思います。

NAKAMURA TEA LIFE STORE_nishigata (1 - 12)

NAKAMURA TEA LIFE STORE_nishigata (2 - 12)
店頭ではお茶の淹れ方はもちろん、お茶についてゆっくり話をうかがえる

タクロコマ 八万寿茶舗さんにおうかがいした時も、オーガニックのお茶を生産から販売まで一貫してやっているのは本当に「NAKAMURA TEA LIFE STORE」さんしか知らないくらい少ないと仰っていて。あぁ、業界の方でもそうなんだなと思いました。

西形 農家がやっているお店が東京にあること自体が少ないからかもしれないですね。

八万寿茶舗(はちまんじゅちゃほ) 八万寿茶舗(はちまんじゅちゃほ) 八万寿茶舗(はちまんじゅちゃほ)

タクロコマ 最初に「NAKAMURA TEA LIFE STORE」というブランドをつくり、こういうデザインで展開したのは西形さんだと思います。だからそれは実験しているみたいで、ワクワクしませんか。

西形 そうっすね! 本当にそう思います。今までデザインの仕事をしていても、なかなか自分のつくったものが使われている手応えは得られなかったんですけど、今はそれをお店で直接得られます。それは嬉しいというか、面白いですね。

タクロコマ そういう肌感覚や情報はどんなふうに活かしているんですか? 生産者の中村さんと二人三脚でやられているからこそ気になります。

西形 この間は中村くんに2年間お店で営業してきたことのフィードバックができまして。それで去年の春、茶畑の一区画にあたらしい品種のお茶を木を植えたんですよ。

タクロコマ どうして新しい品種の茶木を植えることになったんですか?

西形 いま僕らが販売しているお茶というのは同じ品種で系統が似ています。でも本来、お茶はもっと品種にバリエーションがあるんですね。お店でお客さんに茶葉の評判を聞いていったら、系統の違うお茶があったらいいだろうという結論に行き着いて。植えた茶木が商品としてお店に並ぶまでには3年から4年かかるんですけどね(笑)。

NAKAMURA TEA LIFE STORE 茶畑

お茶のことを学べる場所をつくりたい

タクロコマ 楽しみですね。そういう今後の展開のことで、いま考えていることはありますか?

西形 お店を増やしたいと思っています。この建物は水回りの設備がなくて喫茶ができないんですよ。安らぎの空間を提供したいというよりも、興味を持ったひとがじっくりお茶のことを学べる場所にしたくて。

「東京でお茶をつくる」ってあんまり聞かないですよね。もちろん茶畑もない。だけどある程度つくって、最後の仕上げの段階──仕上茶の製造工程──は、東京でもやろうと思えばできると思うんです。

タクロコマ 同じ蔵前に店舗を構えるソルズコーヒーさんは豆の焙煎からハンドピッキング(選別)を東京でやられていますよね。

西形 まさにそんなイメージです。喫茶してもらいながらつくっている現場を見て知ってもらえたら、お客さんもここで過ごす時間が楽しくなると思います。ソルズさんやダンデライオンさんの影響を受けているんでしょうね。

タクロコマ お店で仕上げの作業ができれば、より鮮度の高いお茶が飲めそうですね。

西形 そうなんです。できれば中村くんが「手もみ製茶法」を覚えて、その場で茶葉を手もみしてもらいつつ、お客さんがもんだばかりのお茶を飲める空間がいいなぁと。

手もみ

タクロコマ お店の出店はどの地域を考えているんですか?

西形 蔵前の先輩方に話を聞くと、いまお店がある蔵前に固めた方がいいんじゃないかって教えてもらうことがあるんですね。

タクロコマ じゃあ蔵前が第一候補に。

西形 そうですね。っていうのも、お客さんの多くは蔵前で店をやっているというところに、いちばん興味をもってくれているようなので。

ちょうどこの間、代々木ビレッジで開催しているマルシェに参加したんですね。その時に「あっ、蔵前でお店をやっているんですか? 最近なんかよく聞くよね」っていう反応をいただいて。

タクロコマ たしかに2年前よりも「蔵前に行きたい!」って言うひとが増えたと思います。実際にそういう声があったから、1月に「もとくらフォト散歩」を企画させてもらったんです。

NAKAMURA TEA LIFE STORE
【東京・蔵前】モノづくりのこだわりに触れる、もとくらフォト散歩にて

タクロコマ あとは物件との出会いによりますね。

西形 そうですね。いまは今後のお店の展開のために自分たちの活動を振り返って、やってきたこととこれからやりたいことを整理しているところですね。

タクロコマ 具体的に動き出しそうなのは、来年、今年中ですか?

西形 うーん、僕自身が今までの人生で“いついつまでにこれをやる”っていう目標と、そのための期日を決めて動くタイプじゃないんですよね(笑)。

タクロコマ 伺っておきながら恐縮ですが、僕も同じくです(笑)。

西形 中村くんと話して整理ができたタイミングに動き出せるはず。そのためにはもう少し地元の生産者の方々の話を聞いたりとか、まずは現時点でできることをしていこうかなと。

タクロコマ とにもかくにも、応援しています。

西形 自分たちの活動を振り返る機会になりました。本当にいいタイミングで来てくださって、ありがとうございます。

タクロコマ そう仰っていただけると嬉しいです。最初の取材がきっかけで僕もお茶に親しむようになりました。また何かで役に立てることがあったら嬉しいです。

西形 最後によかったら、お茶を飲んでいってくださいね。

NAKAMURA TEA LIFE STORE_西形圭吾さん

お話をうかがったひと

西形 圭吾(にしかた けいご)
静岡県藤枝市出身。デザイン会社や映像編集スタジオ勤務を経て2012年にInc.1981LLCを設立。デザインや映像制作業務と並行して2013年よりオーガニック日本茶ブランドNAKAMURAの運営を開始。

このお店のこと

住所:東京都台東区蔵前4丁目20-4
アクセス:東京メトロ大江戸線蔵前駅から徒歩約4分。
電話:03-5843-8744
営業時間:火曜〜日曜日 12:00-19:00
定休日:月曜日
公式サイトはこちら

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文・写真/タクロコマ
一部写真提供:NAKAMURA TEA LIFE STORE

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